'97

最近のこと

キャバクラを始めて早4ヶ月。店内ランキング上位にいるのも慣れたものだ。

 

好きな男とは別れた。大学生の、彼とは。

好きだと思えなくなった。会いたいと思わなくなった。そうなったら恋愛なんておしまいだ。別れを告げるのはいつもどちらかだと決まっている。別れを告げるのはいつも私だ。好きだった男はいい人だった。寛大で干渉せず、自由の身でいたい私にはちょうど良かった。だけど寂しさがあったのも事実だ。会いたいというのはいつも私からだった。厳密には会いたいのではなく、そろそろ会わなければ会うタイミングがなくなる。そう思うようになった。

あれは恋愛だったのだろうか。

一週間以内には必ず会っていたのに、気づけば10日ほど会ってなかった。私の中で、好きだった男はいてもいなくても一緒だった。どうでもよくなっていたのだ。別れ話をした時の好きだった男は冷静で、物分かりが良すぎて怖かった。もう会うこともないだろう、そう思った。後日、好きだった男からもう一回だけ会ってほしいと言われたが、1mmもときめかなかった。

 

私に好きな人ができたからだ。

 

好きな人は38歳で、キャバクラで出会った。ただのお客さんだったけれど、一目惚れだった。会ってその日にホテルに行った。

(ワンナイト的なアレなんだろうな。)

そうおもった。

ホテルに着いてから、好きな人と人生の話をした。今まで付き合った人、育ってきた環境、左腕の傷のこと。気づけば朝になっていた。好きな人のことを好きになるまで、時間はそうかからなかった。

好きな人はお酒が大好きで、ちゃらんぽらんしてて、どこかふわふわしてるけど、芯があって熱い人間だと知った。適当に見えて適当じゃないところが好きだ。ぶっきらぼうで、不器用で、思ってることと反対のことをいう。だけど思いやりのある人だ。人をよく見ている人だ。他人のことを思って本気で怒れる人。好かれる側の人間だ。付き合う人はリスペクトできないと無理な私にとって、好きな人はサイコーだった。顔ももちろん好きだったけれど、内面を知れば知るほど好きになっていった。

出会いの場がキャバクラだったから、私は目先のことしか考えていなかった。好きな人が、私との将来を真剣に考えていると知って嬉しかった反面、驚いた。

 

好きな人のことが好きすぎて、二人きりになった時に泣いてしまった。酔っていたから自分が何を言って泣いたのか覚えていないけど、好きすぎて困ると伝えたのは覚えている。

好きな人は、上司と毎晩飲み歩く人だ。飲む場所は大体キャバクラ。顔がいいから女の子にモテる。私より可愛い子が沢山いる中で私は不安になった。好きな人に「飲み歩くのはしょうがないって分かるだろ。お金出すのは全部上司だから。でも俺の帰って来る場所は文ちゃんだけだよ。」そう言われて泣いてしまった。

好きな人が私との将来を本気で考えてるって伝わって来るし、酔って電話かけて来るときはいつもの虚勢なんかなくて、滅茶苦茶素直だ。どうやら好きな人は、私のことを「すげー好き」らしい。私は年上の社会人と付き合うのが初めてだったし、仕事の話をできるのも楽しかった。「仕事を真面目にしないやつは嫌いだ。お前ががんばろうって言って頑張ってるのを見ると俺もがんばろうって思える」って言われた時にああ好きだなと思った。背中を押してくれる人だなと思った。仕事行きたくないなって言った時に、好きな人は頑張ってこいって言ってくれる。行きたくないと言って、じゃあ休めば?なんて言われたくないのだ。そして私が本当にダメな時とそうでない時の見極めがしっかりできる人。周りの人間に恵まれてると満面の笑みで言えてしまうような人。陽だまりの中で生きてきたような人。眩しい。私とは違う。だから惹かれてしまうのかもしれない。お前が見たこともないような景色を見せてやりたいと言われたのが嬉しかった。一緒に見てみたい。

 

いままで、どうせいつか全部終わるのだと思いながら恋愛してきた。4年半付き合った元恋人とも、好きだった男とも。ずっとなんてないと斜に構えていた。いつか全部終わってもいい。それでもいい。それでもいいから一緒にいたい。好きなんだな。

 

好きな人は、私にキャバクラをやめろと言わない。「あんまり言いたくないけど、」本当にいいたくなさそうな顔をして「惚れた女が客に口説かれたり触られたりするのは嫌だよ」と好きな人は言った。私はそれを聞いて嬉しくなった。

キャバクラは楽しい。出勤前に笑みがこぼれてしまうくらい楽しい。女の子も私を指名してくれるお客さんもみんないい人だ。お酒も美味しい。知らなかった世界を知れた。良いも悪いも全部自分の目で見たいと決めて飛び込んだ世界だけど、私のした選択は間違ってなかったと思う。視野も広がった。いろんな職種の人と話ができるのが楽しい。ちやほやされることもあれば罵られることもあるけど、それも全部経験になると思えばなんともない。キャバクラの寿命はそう長くない。駆け抜けたい。

 

いま一番幸せなことといえば、好きな人と一緒にお酒を飲んでくだらないことで笑い合えることだ。好きな人に早く会いたい。頑張りすぎる好きな人を抱きしめたい。お疲れ様って満面の笑みで迎えるんだ。