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いつか私の手を、親元を離れて生きていくわが子をいとしく、そして寂しく思う。

 

 

ちびすけは生後8か月を過ぎ、一人で座るのはもう完璧で、はいはいのスピードが恐ろしく速い。ちびすけの最近の趣味は、10秒ほどふらつきながらも支えなしで立つことらしい。私が見ていないところで、少しずつ、確実に成長していくちびすけを愛しく思う。

ちびすけが1歳になるまでもう半年もなくて、その間私たちは家族だから同じ時間を共に過ごすわけだけど、赤ちゃんから子どもになり、やがて大人になるちびすけは今過ごしている記憶をすべて忘れてしまう。当然私も赤ちゃんだった頃のことを覚えていないし、そういうものなんだろう。寂しく感じる。写真を沢山撮るけど、写真なんていうものはちびすけと過ごした日々の、ほんの一瞬でしかない。隣で寝息を立てるちびすけを見つめて、ああこのまま時が止まればいいのにと思う。このまま一生、守られて、幸せに、どうかと願う。この子が不幸になりませんように。悲しい現実に涙を流しませんように。人の優しさに触れて生きていけますように。誰かに敵意を向けられて傷つけられませんように。愛されて生きていけますように。ああこのまま時が止まりますように。

だけど、どれだけ願っても時が止まらないことを私は知っている。これから、ちびすけは大きくなって、沢山笑って沢山泣いて生きていくことを私は知っている。できるだけ幸せでありますように。愛されて、笑顔の絶えない毎日を送れますように。

重い上に欲張りすぎかな。

 

私がちびすけの幸せを祈るように、私の親も、もしかしたら同じように、幼い私の寝顔を見てどうか愛されておくれと願ったのだろうか。そうだといいな。

親元を離れてほしくないと思ってしまうのは、愛なのか、親としてのエゴなのか。私の子どもはちびすけしかいない。このまま子どもがちびすけ一人だけだったら、本気で毒親のようになってしまいそうだから、あと二人くらいは子どもが欲しいな。私の溢れんばかりの愛情を分散させなくてはいけない。そんなくだらないことを考えている。

 

本当に、一年前では考えられないほどちびすけのことが好きで困ってる。こんなに好きになると思っていなかった。心の準備もできていないまま生まれ、嬉しいとも思えなかった自分を後ろめたく感じる。産んだこと、本当に一ミリも後悔してない。ちびすけがいなければ、もっと違う、180度違う未来が私を待っていたんだろうけど、もう戻れない。たまに、戻りたいと思うこともあるけど、ちびすけの顔を見たら私の下選択肢は間違っていなかったなって思ってしまう。私の顔を見るだけで笑顔になるこの子がいなかったら、私は今頑張れていないなあ。ああ大好きだな。あと20年はちびすけと一緒に生きていくって考えたらなんかすごいよね。すごくない?未来が保証されているって、なんか、すごいや。