'97

万引き家族

 

 

時系列バラバラだけど、備忘録として。

 

 

わたしが一番号泣した場面は、安藤サクラがリンちゃんを誘拐してきたときに着ていた洋服を燃やすところ。燃え上がる炎を見つめながら、安藤サクラが虐待されていた子どもを抱きしめて「好きだから殴るなんて嘘。好きだったらね、こうするんだよ」と言って後ろからぎゅっと抱きしめる場面。

父親からも母親からも虐待されて愛情を注がれずに育ってきた私が抱きしめてもらっているような、全て許されたような感覚になった。あのシーンだけは涙と嗚咽が止まらなかった。

私もお母さんに抱きしめられたかった。たったの一度でいいから抱きしめられたかった。大好きだよって言われたかった。好きだよってたったの4文字。それだけ言われたかった。私がずっと小さかった頃から。

 

安藤サクラとリンちゃんが一緒にお風呂に入っている場面。

安藤サクラとリンちゃんの腕に火傷のあとがある。一緒だねって笑う安藤サクラの火傷のあとをリンちゃんはずっと撫でているのだけど、そこでも泣いた。私の左腕の傷も、お母さんに撫でてもらったら今まで起こった何もかも許せるのに。全部お母さんのせいにしてきたこともごめんなさいって言えるのに。お母さんだって大変だったんだよねって言えるのに。お母さん大好きだよって声に出して言えるのに。お母さんのことずっと好き。お母さんは、好きだったのかわからないけど愛情表現が下手くそで、好きだよって伝えられなくて、伝え方がわからなくて私を殴ったの?心の底から死ねって思ってて首締めたの?私がいなければ人生やり直せるって思って私に包丁突きつけたの?苦しいよ。

 

「虐待されてきた子どもはあんなに人に優しくなれないんだよ」と安藤サクラが言っていた。複雑な気持ちになった。私の周りには虐待されて育ってきた子がいないから、実際に虐待された子どもがどんな風に育つのか知らない。けれど、私は幸せに豊かに、親に死ねばいいのにとかあんたなんか産まなきゃよかったとか言われずに育ってきた子どもよりずっと人に優しくできる。せめてそう思わせてほしい。環境では恵まれなかったかもしれない。幸せな頃なんてなかった。だからせめて、人間性では勝っていると思いたいんだよ。環境のせいにしたくない。ダサいから。でもどうしても、普通の家だったら、普通に、お父さんもお母さんもいて毎日あったかいご飯が出てきて、家族で食卓を囲んで、ねむるときはおやすみって言い合って、起きたらおはようって言い合える、そんな家族を想像してしまうんだよ。

 

リリーフランキー安藤サクラが素麺をすすりながら、雨が降りそうだね、という場面。安藤サクラリリーフランキーにキスをしたあと、何にもなかったような顔をして、また素麺をすする。困惑するリリーフランキーを押し倒す場面。滅茶苦茶グッときた。結婚もしていない、家族ではないのだけど、確かに繋がれているものがそこにあるのだと感じた。家族ってなんだろう。産んだら親になるの?産んでもらったらこどもなの?血が繋がっていれば家族なの?一緒にいれば家族なの?分かんないよ。わかんない。だって万引き家族は幸せそうに見えたんだもん。

 

「洋服を買ってあげる」「いらない」「どうして、欲しくないの?」「…叩かない?」

安藤サクラを見つめるリンちゃんに涙が止まらなかった。

私もこれがほしいここに行きたい、母親にそう伝えたことがある。これはお金がかかるでしょう。どうしてそんなところへ行きたいのどうせ他の子の真似でしょう。決めつける母親に、私のしたいことを全て遮断する母親にもう何も言えなくなっていった。きっとそういうところからやりたいことや行きたい場所へも行けなくなった。生きていく上で目的もなくなった。

 

仕事をクビになる場面。

同僚に「あんたが辞めるならあのことは黙っててあげる。私見ちゃったんだよね、あんたが小さい女の子と一緒にいるところ」少し悩んだ後に、「私が辞める。言ったら殺す」と言った安藤サクラの目は確かに母親だった。産んだら親になるなんて嘘だ。だってあんなに母親の目をしていた。この子を守るという強い意志があった。

 

「リンちゃん」をしっかり見ていたのはきっと、本当の父親でも母親でもなく、万引き家族だと思う。血の繋がりもない、本当の家族じゃないかもしれない。だけど本当の家族ってなんだろう。そんな風に思わせる作品だと思う。本当の家族って何。愛されていた。確かに。リンちゃんは確かに愛されていたんだよ。

 

わたしは?わたしは愛されていたの?

お母さん、おしえてほしいよ。